(平成21年度発表)
JA秋田ふるさと青年部里見支部 佐藤金也
「JAの青年部活動といえば、食農教育」。
この考え方は、全国的にもすっかりと定着し、
さまざまな組織、地域で、色とりどりな取組みが実施されています。
ユニークなものは、多くのメディアへ取り上げられ、
そのイベントは組織PRや話題作りの為の一つの機会、
ひいては”媒体”となりつつあるように思います。
しかし、矢継ぎ早にさまざまな取組みが実施されていく中、
当里見支部の食育活動には、よい意味で大きな変化がありません。
作付品目の変更など、軽微な変化は幾つかあっても、
実施する活動の目的や対象、規模など、
根本は、30年前から続く伝統を大切に守り続けています。
当里見支部はB級グルメの横手焼そばで有名な、秋田県横手市に位置し、
盟友数は36人と少ない、小さい支部の一つです。
しかし、当支部は、青年部が設立して約60年という長い歴史があります。
その歴史の中で、世の中に『食育』という言葉が無かった時代から、30年に渡り、地元小学校の児童たちへ、農作業を通した『食』の大切さを教えていました。
30年。その長い歳月の原点は、ちょうど私たちの父親が青年部員として活動していたころにさかのぼります。
当時、小学生だった私たちを相手に、サツマイモの定植・収穫作業を指導していました。
私たちは青年部員の一挙手一投足に注目、
彼らのイキイキとした表情と、どんどん大きくなるサツマイモの”チカラ”に感動していたことを鮮明に思い出します。
現在、私たちはその歴史を受け継ぎ、作物は変わりましたが、
子供たちに、学校農園で「米作り」を通した食育の授業をしています。
田植えをして、稲刈り、脱穀・精米を経て、食す。
ありふれた活動ながらも、日本の食の「定番」、
米作りの授業を、着実に継続していました。
そんな中、青年部事務局から、一報が入りました。
「里見支部と平鹿支部が一緒になる計画ある」と
これは、支店の統廃合によるもので、JA側からの要望でした。
「馬鹿くせ事と言うな、組合長はなにを考えているの!」
なんて危ない発言も飛び出しましたが、
最近の支部活動は部員の減少や高齢化等によりやや低迷気味。
部員からは「このままでは里見支部は無ぐなるんじゃねが?」なんての声もちらほら!
何とかしなければという思いから「里見支部存続を目標に」今後の活動について話し合いました。
しかし、なかなか良い案は出ず、悶々としていたところ、ある部員が、
「オラだ、昔から米作りの食育やっでだし、なんとだべ、ここは一つ、伝統を守り、それさオラだなりのエッセンスを入れて、ん~あれだな、つまり新しい定番どご作ってみねが?」
「でもなにをやるの?」
と悩んでいたところ、支部長が、
「里見は昔から畜産が盛んで、副産物の堆肥を利用した有機栽培に取組んでいる」
「これに消費者が要望している、あまり農薬を使わない『アイガモ農法』を学校農園でやるのはどうだ?」
「お~、賛成!」
「まてまて、今年は東北・北海道地区JA青年大会が札幌だ!
この取組みを大会で発表すればPRにもなる」
「絶好のチャンスだ!」
「よしやるべ!」
“里見支部活動の重要性を訴える” “新たな技術の習得” プラス “更なる部員の団結力”を目的に、私たち36人は一丸となって、この『アイガモ農法』で「里見支部の存在感をアピールし、里見支部を存続させる!」という任務を自らに課しました。
私たちは、まず、JAの稲作担当に相談。そこで重大な問題にぶつかりました。
○学校側の反応は?
○圃場を提供してくれている方から了解は得られるのか?
これらを一つずつ解決していくことに。
○学校側からは・・・
「少し不安なところはありますが、みなさんのことだから、児童たちへ貴重な体験を与えてくれることでしょう!やりましょう」
○圃場を提供してくれている方からは・・・
「アイガモ農法やるってば、田の管理大変になるど?」
「子供たちさ貴重な体験をさせでやりたいんです!」
「わかった。だども、田どアイガモの管理はきちんとオメだでやるんだど」
と、何とか了解をもらうことができました。
双方から快い返事を頂けたことは、これまでの実績があったからこそ。
定番の営みとして、「青年部の米づくり」が、地域へきちんと根付いていたから、新たなチャレンジにも心から応援してくれる…。
とても素晴らしい関係性が築かれていることを改めて実感しました。
また、JA側からこの取組み対し要望も出されました。
それは、この事業を米販売の広告塔的にしたいと言う事でした。
部員も最終的には「米が高く売れるであれば共にがんばろう」ということになり
消費者が産地に来る交流会で今回の取組みを発表する事を検討しています。
他にも様々な問題もありましたが、ようやく田植えの時期が到来。
子供たちから「アイガモさん来ないのぉ~?」
と残念がられましたが、放す時期は先のこと、
「今日、田植えをがんばったら、ちゃんと連れて来るよ。」
とやる気をかきたてました。
泥だらけになり、足が抜けなくなったりしながらも無事終了。
アイガモを放す時期まで、子供たちにはもうちょっと待ってもらうことに・・・。
そしていよいよアイガモとのご対面、
まだ孵化して10日くらいの小さい雛に、
「小さくて、かわい~い!」、
「鳴き声がかわいい!」などの声が上がりました。
そんな楽しい時間もあっという間に過ぎ、田んぼに放してもらうことに・・・。
「もうちょっと触って遊んでいたかったなぁ~。」と寂しそうな様子でしたが、これからがアイガモ農法のスタートです。
私たち青年部は、アイガモと圃場の管理を当番で見回りをしました。すると担任の先生が、「授業中でもアイガモが逃げたら、捕まえに行っちゃうんですよ。」
「でも、農業の大変さ、特に、農薬を極力抑えた安心なお米を作ることがいかに難しいかが少しずつわかってきたようです。」
と、寛大な心で目をつぶってもらいました。
そうこうしている内に、アイガモの引き上げ時期も過ぎ、待望の実りの秋を迎え、稲刈りの授業がやってきました。
カマを持ったことのない子供たちが上手に刈っている姿には「ちゃんと稲刈りできて、すげしゃ!」と感心。
反面、刈った稲を昔ながらの杭掛けでは杭がうまくささらず苦戦。しかし、変わった青年部員が見事に杭をさすと子供たちから大きな歓声があがり、青年部員の力の強さと農業の難しさを少しは理解してくれたと思います。
こうして秋の稲刈りの作業も終わり、後日、収穫感謝祭を開催。
子供たちは今までの田植えや稲刈り・アイガモについての感想を発表し、私たちに手紙や手作りのトロフィーと感謝状を作ってくれました。
手紙の内容はアイガモのことが多かったですが、農業に対する苦労や大切さ、また、有機栽培という「里見米作りの特色」についても大きな関心を寄せてくれたようでした。
このアイガモ農法を通じて今後の食育事業の色々な課題も見つけることが出来たと思います。
その一例として収穫感謝祭でアイガモを食べさせるか否かで
先生、保護者と激論しました。
確かに動物愛護の面から考えると気持ちは理解できます。
しかし、農業は、育てて食するのが原則、
一つの命をうばい、それを、食すると言う行為で命を維持させる。
かわいそうと言っても最後には食べるのです。
それは農業の本筋『自給自足』と人間が生きる為の手段だと思います。
残念ながら今年はアイガモを食べさせる事は出来ませんでした。
来年は、本当の食育を児童、父兄、先生、
そして我々青年部員も一緒に考え、
ちょっと大げさですがアイガモを食するための、第一歩の年とし
命の大切さを、考えるために生き物調査や稲の生育調査に取り組む計画です。
それほどユニークな取組みもなく、メディアが飛びつくような斬新さもない、
一見、マンネリのようにも見える私たちの食育活動。
しかし、私たちの活動は、ありがたいことに
「定番の活動」として、しっかりと地域に定着しています。
そして、その意義や目的までも、実施者、協力者、参加者が互いに共有することができている―。
つまり、この「地域定着力」とこそ、他の食育活動にはない、私たちの”ユニークさ”です。
「定番」を築き、いかにして地域に根ざした活動へと推し進めていくか―。
これからの「食育」に求められることはまさにそこにあり、延々と続く私たちの営みにはその「本質」がある。
こう自負しています。
支部の存続を賭けて取り組んだアイガモ農法。
この活動を機会に部員との一体感が強まったと共に、大切な事を見出せたと思います。
それは形だけの存続では意味がないということです。
たとえ、里見支部の名前が無くなったとしても、
部員一人一人が「里見支部魂」を持ち続け、
60年続いた伝統を引き継ぎ、次の世代へ伝える事が私たち支部活動の「定番」と考えます。